映画「キャロル」より

メンバーおすすめ映画「キャロル」

「キャロル」 公式サイト http://carol-movie.com/

香川県内の上映は・・・
イオンシネマ綾川では4月22日で終了。
高松のホール・ソレイユで4月23日から5月13日までの予定です。

↓ メンバーの石井さんが感想を投稿してくれました。

もう少し私が若かったら、この映画に完全に恋していたと思う。
キャロル役のケイト・ブランシェットのエレガントな波打つブロンド、朱赤の口紅と同じ色のマニキュア、煙草を吸うしぐさ、テレーズ役のルーニーマーラーの華奢な肩とArgus社の四角いカメラを持つ細い指、無垢で真っ直ぐな眼差しが忘れられない。
見た後しばらくこの繊細な世界観に浸っていたかったというか、抜けられなかった。

1952年、クリスマスを間近に控えたニューヨークの街。テレーズが勤める高級百貨店のおもちゃ売場に、娘のプレゼントを買いに来たキャロルは(おそらくわざと)手袋を忘れる。
手袋をキャロルの自宅へ郵送したテレーズのもとに電話が掛かってくる。キャロルからお礼のランチに誘われたテレーズは翌日指定されたレストランへ向かう。
お互い急ぐよう自己紹介をしあうふたり。高圧的で自分の体裁しか考えない夫との愛の無い生活に疲れ切り、もうすぐ離婚することまで打ち明け、「あなたは天から落ちてきたかのよう」とテレーズを見つめるキャロル。自然にキャロルに惹かれていくテレーズ。
誰かを好きになるということは女同士とか男同士とか、あるいは男女であっても関係ない。
ただ同じ性であり、社会的階級も違い年齢のギャップもある2人は傷つき苦しむことになる。キャロルの夫により苦しみはさらに深くなっていく。
キャロルとテレーズの関係を理由に、母親としての適性を欠くと裁判所に訴える夫。キャロルは裁判所から審問まで当分のあいだ娘と会うことさえ禁止されてしまう。
審問が始まるまで、思いつくまま西へと旅に出ると語るキャロル。「よろしければあなたも一緒に」と誘う言葉に応じるテレーズ。
2人は心に正直に生きるための旅に出るのだが—

原作は「太陽がいっぱい」で知られるパトリシア・ハイスミスが、1952年にクレア・モーガンという名義で出版し、1984年にはじめて自身の名前で再出版された作品。
ハイスミスの自伝的な物語でもある。30数年もの長い期間、彼女が書いたものだと公にされなかったことを見ると、当時の表現の不自由さと発表することへのリスキーさが伺える。
60年以上経った今、その不自由さは変わったのだろうか。キャロルとテレーズが抱える苦悩は今も変わってはいない。

スーパー16㎜フィルムで撮影しさらに35mmにのばした映像全体は、粒子の粗い映像になるため、ざらっとしたディティールやノイズが目立ち、反面光が柔らかく放たれることで古く味わいのある画像になっている。そんな繊細で不安定な映像が2人の心を表しているかのようだ。
抑えられた色彩、わざとピントを外したショット、徹底的に作り上げられた美術にはため息が出る。
しけって曇った車の窓をつたう雨の滴が、まるでルーニーの涙のように感じた。

「キャロル」のエンディングはあえてはっきりとは描かれてはいない。どうとらえるかは見ている私たちにゆだねられるのだ。

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